お客を逃がさない釣り銭の用意の仕方

   〜変数やデータが多い場合〜
一般に商店では、開店前にある程度の小銭を用意して釣り銭を用意するが、同じ商売を永年続けている場合 は、経験的にどの程度の小銭を揃えればよいか見当がつく。しかし、経験が役に立たないきもあるし、初めて 商売する場合もある。そのような場合に確率とグラフを用いて実験する方法を考えてみよう。
 問題:150円の品物を25個売っている自販機とする。五十円と十円のお釣りとして使える硬貨計750円が     この自動販売機の中に残っていたとして、25個の品物が売れる前に釣り銭がなくなって販売中止にな     る可能性を計算してみよう。  仮定:1)使える硬貨は十円玉、五十円玉、百円玉の硬貨のみ。二百円を投入したときは、五十円のお釣りが      出、お釣りが無くなった時は発売中止のサインが出て、機械はストヅプする。     2)お客が五十円以下の硬貨、つまり、五十円玉一枚、または十円玉五枚で品物を買ったときは、その      硬貨はそれ以後お釣りとしても使えるような仕組みになっているものとする。     3)一人の客が百円硬貨三枚持って、品物を二つ買う場合は、二人の客がきて、最初の客が百円と五十      円硬貨で品物を一つ買い、もう一人の客が百円と五十円硬貨で一つの品物を買うと解釈して、つね      に客一人が一つの品物を買うとする。また、客は百円玉を必ず使い、百五十円を五十円玉三枚や五      十円玉二枚と十円玉5枚などの使用はないものとする。 販売中止の時期  自動販売機の釣り銭の状況は前ページ図のグラフを用いて次のように考えられる。  x、y座標を使うと、x軸が何人目の人が買いに来たかを表し、y軸が釣り銭として使える小銭の金額を表す。 例えば、図の頂点S(0,750)は、一人も買っていない時の釣り銭用の硬貨が七百五十円残っていることを示す。 同じく、頂点M(3,900)は最初から三人続けて百五十円で買いに来た後で釣り銭用の硬貨が九百円になってい る残っていることを示す。たまたま百円硬貨二枚持った客ばかりが、つぎつぎと買いに来た場合には、七百五 十円の釣り銭は、十五人目の客Oでゼロになり、そこで販売中止になってしまう。また、最初に百五十円で買 い物に来た客があり、その後は全部百円硬貨しか持っていない客が来た場合を考えると、最初に釣り用の小銭 は七百五十円から八百円に増え、その後は五十円ずつ滅っていき、最初の客も入れて、十七人目の客Pが買い 物をした後で、この自動販売機はストップする。同様に、釣り銭なしの客が二人だけの場合は、十九人目の 客Q、釣り銭なしの客が三人だけの場合は、二十一人目の客Rの後で自販機はストップする。 これらの例で想像つくように、この問題を解く鍵は客が百円玉を持ってくる確率と、五十円以下の硬貨を持 ってくる確率如何と、何番目の客が五十円以下の硬貨と百円硬貨のどちらを持って買いに来たかによって定ま る。  このようなさまざまなケースを上手に分類する方法は、グラフを用いて、それぞれの場合の確率を計算する。 二十一人目の客が買いに来た後で、販売中止になる場合でも、釣り銭を必要としない三人の客が何番目に来たか によって、いろいろなケースに分かれ、それらのケースの数を数えあげないことには確率は求まらない。 矢印(有向辺)の意味と販売中止の場合の数  矢印には右上向きのものと右下向きのものがあるが、上向きの矢印はもちろん、客が五十円以下の硬貨を持て 買いに来たので、釣り銭が五十円増加することを意味し、下向きの矢印は客が百円玉で買い物をしたために釣り 銭用の貨幣が五十円滅ることを意昧する。  いろいろなケースは、それぞれこのグラフの一つずつの道によって表されているので、ケースの数の数えあげ は、このグラフの道の数を計算することである。  道の数を計算する方法はバスカルの三角形による、二項係数の計算の方法と全く同じである。  パスカルの三角形は図2のような有向グラフであって、矢印によってつぎつぎと、二項係数に相当する頂点の 値を計算する方法である。ある頂点の値は、Pから出発してその頂点に至る道の数であり、したがって、ある頂 点の値はその頂点へ向かって矢印が出ている頂点の値の和となる。  釣り銭のグラフの場合も、出発点Sから始まって、つぎつぎと頂点の値、すなわちその頂点に至るSからの道の 数を数えていくことができる。  以上から十五人目、十七人目、十九人目、二十一人目の客が買いに来た後で釣り銭がゼロとなる場合の数は、 それぞれ1,15,135,950であることが分る。 販売中止の確率計算  一人の客が二百円を持って買い物にくる確率と、百五十円の硬貨を持って買いにくる確率をそれぞれP,qと する。もちろんp,qは、p+q=1 0 < p , q < 1 を満足していなければならない。十七人目までの客が来る間に、釣り銭がなくなって販売中止とる確率rは、 r=p15+p16×q×15+p17×q2×135+p18×q3×950 で計算できることになる。 p、qの値は自動販売機の置かれる場所、時間、どんな硬貨を持って買いにくるかという客の種類等によって 違ってくるだろう。pの値が 2/3,1/2,1/3 の場合に試算してみると、それぞれ、 (2/3)15+(2/3)16×1/3×15+(2/3)17×(1/3)2×135+(2/3)18×(1/3)3×950=0.26 (1/2)15+(1/2)16×1/2×15+(1/2)17×(1/2)2×135+(1/2)18×(1/2)3×950=0.000855446 (1/3)15+(1/3)16×2/3×15+(1/3)17×(2/3)2×135+(1/3)18×(2/3)3×950=1.49316E-060 となって、pの値によって相当異なることがわかる。したがって、pの値をできるだけ正確に知ることが肝要である。