スーパーマーケットマーケッテング
     -パスカルの三角形応用の新たな展開-
  「プロ野球日本シリーズを『数学する』」の確率計算、特に、力量差がある場合の計算は、流通業界の方々
には客の流れや商品配置に応用できないだろうか。商品配置と客の動きの計算に対応させられないだろうか、
という提起がなされた。
 そこで私と生徒たちはとりあえず調査してデータを収集してみた。私と生徒たちとの調査結果を簡単に報告
しよう。
 下図のように格子状の店内配置をしているスーパーマーケット(SMという)は多い。そして商品配置に
よって客を誘導(客導線という)している。入口は、毎日の食卓を飾る葉物野菜に、果物、野菜、鍋材料、漬
物と順に陳列し客の買気をそそる。次いで、ハム・ソーセージなど肉類コーナー、その奥に、生魚・刺身など
魚類コーナーとL字型に客を店内奥に誘導する。さらに、味噌・納豆、バター・チーズなどの乳製品にデザー
ト、パンとU字型(符号E)に客を誘導する。客の入り込まない店内の真ん中のあたり(符号F)には、客寄せ
の商品(パワー商品という)、例えば、1パック5円の卵を置いて客を集め、四方に散らし他の商品購買を促
進する工夫をしている。入口の裏側にあたる通路(符号B)やメイン通りの途中からそれる通路(符号D)
は、客の通りが少ない予想から陶器や掃除用具などの雑貨品を集め、しかも通路が細く入りにくい。

   入 口    
         B レジ  レジ  レジ  レジ     
  葉 A  果雑
  物   物貨   麺類                  パ
  野    D                        ン
  菜  C 果雑
      物貨         玉 子                     バ
  野                               F                       タ
  菜    干雑              菓子類
  漬   物貨                                             乳
  物      E                     製
  肉 類  肉 類   刺  身   鮮  魚   鮮  魚 味噌・納豆 品

 ところが、調査は、店側の意図に反した意外な客の動きを浮かび上がらせる。
 入口から100人入るとすると、Aの方向へは68人、 Bの方向へは32人。店側が客の通りが少ないと思っ
て、細くしている(90cm)通路DにいたってはAを通って来た55%が入り、メイン通路(符号C 幅1.8m)
を通るのは45%である。
 この調査結果、商品陳列によって客誘導してきた店側の思惑が成功していると言えるだろうか? 
 ちなみに各点における通過人数をパスカルの三角形で計算すると次の通り、
 入 口  
  100名   B50名
 
  A50名   D25名
 
  C25名
 
 また次図のように格子状でない店内配置をして客を誘導しているスーパーもある。例えば、野菜と果物の
コーナーに入ったら、引き返すか、次のコーナーに行く以外、途中でわき道から他のコーナーへ移れないよう
にしているような配置である。
 
 果 物  入 口    
 葉 A   果雑 B レジ  レジ  レジ  レジ  レジ 
 物    物貨  雑菓
 生 C  漬雑   貨子      玉 子
 鮮    物貨 雑菓         
 野    D   貨子         麺類            乳製品
 菜 野 菜       E                   F          
      鮮      鮮 肉      肉 
      魚      魚 類      類
       鮮 魚鮮 魚   肉 類肉 類

 買い物ラッシュの16時から19時の間を、30分刻みで何日間も調査した。
 毎日、30分毎にほぼ100名。
   生徒にとってはこのデータすら大きな意味がある。なぜなら、街角オリエンテーリングでパスカルの三角形
に抽象化するにあたって掲げた二つのルール
 (1)来た路を引き返さないように、(机上では便宜的に)上方から下方へ
    下るものとする
  (2) 各交差点では無作為に右か左の路へ行く
が納得できなかった。例えば、「無作為」、恋人や友達が右に行くから、自分も行く、見たい陳列が目に着く
店があるから左へ行くなどというのは「作為」。そうでなくコイン投げの表裏の出方で左右に行くのを決め
る、これが無作為。
 「そんな馬鹿なことは絶対無い。人間には感情があり、買いたい物や人との付き合いで右へ曲がったり、左
へ行ったりするのだからルールそのものがおかしい」と。
挙句には「だから数学は役に立たないんだ」と毒ずく始末だったから。
 調査のために生徒たちは店内A、B、C、E、Fの各地点に着く。
 入口を入った100名の客のほぼ80%がA点通過。A、B両地点のこの調査結果は、このSMの店内配置は店側
の客誘導の意図がかなり成功しているように見える。ところが、野菜コーナー内Cを調べて生徒は驚いた。そ
こでは商品が格子上に並べられ左廻りに客導線が作られているが、客の流れは、商品配列はなんのその、その
流れは見事にパスカルの三角形の計算に合致している(下図は一例)。また、B地点を調査する生徒からAに
入った客のうちほぼ10%がB地点に戻っていること。D地点を通った客は店の思惑通り魚コーナーや肉コー
ナーに入っていないこと、等々。
                   
  野菜コーナー内C
  <ー客導線   入口
     59名
  ーーーーーー|52名
        |
     28名ー|

 こうしたデータが店側の客導線にどのような影響を与えるかは別の機会に報告したい。