インド『IT価値観変革を迫る』

         二十一世紀をつくるのは子供たちであり、今後は教育のIT化が重要になる。我々は一九
  九九年にニューデリーである実験を行った。街の壁にインターネットにつながったパソコ
  ンを埋め込み、何も知らない子供たちにコンピューターを与えるというものだ。最初に来
  た子供は見慣れないパソコン画面を見て「これは何だ」と言い始めた。その十日後に再び
  訪れると、私たちは何も教えていないのに、子供たちは色々なことができるようになって
  いた。インターネットの閲覧からファイルの作製・削除、さらには音楽をダウンロードし
  て再生したりしていた。
     次に、シフトブリという小さな村でも同じ実験をした。初めにやってきた十二歳の男の
  子はパソコンを見て興味を持ち、ボタンを押しているうちに偶然インターネットに接続す
  る方法を発見した。ここまでにかかった時間は六分間。コンピューターリテラシーが六分
  間で得られたのである。その後友人たちがやってきて、彼らもパソコンに関心を持つ。偶
  然一人の子供があるところにカーソルを合わせると、そのカーソルが手のマークになるこ
  とを発見する。子供たちがパソコンに挑戦するたぴにこうした発見が続き、学習が進んで
  いった。学習者が自分自身で学ぶ内容を決めていく方法は教育の新しいパラダイムと呼ぶ
  ぺきものだ。
   社会はこの五十年のうちに大きく様変わりしているが、教育はこの二千年間ほとんど変
  わっていない。現代では、子供たちは学んでいることと将来の自分のかかわりが理解でき
  ない。そして、自分たちが勉強した見返りを早く欲しがるようになった。また、教師の地
  位も低下している。彼らが二十一世紀を形作る子供たちの教育にかかわっているところに
  問題があるように思う。(中略)
   現在の教育の問題点は、「理論から応用へ」という学習の順序にあると思う。この教え
  方では、基礎的な理論と最終的な応用がかけ離れすぎていて、どうしてその理論を学ぶの
  かということが理解しづらい。逆に、応用から始めて理論を最後にするのがよいのではな
  いか。それを助けるのが、子供が自分で学習内容を決めるやり方だ。
   子供は現在、様々な方法で情報を得ている。インドの農村の子供でも、初めて見たコン
  ピュータをすぐに理解することができる。子供たちは既に、自分が何を学ぴたいかを決め、
  それを積極的に学ぴとろうとし始めている。
   子供の頭を開けて知識を無理やり詰め込むというやり方はよくない。そのためには接続
  性を確保することが重要だ。家、学校、携帯電話、携帯情報端末など情報にアクセスでき
  る手段をできる限り確保しなければならない。これは従来の教育法で行う情報教育よりも
  コストが抑えられる。
   教育のIT化を後回しにはできない。なぜなら、教育は二十一世紀を決める手段になるか
  らだ。教育も時代を反映し、子供たちが自発的につくりあげていくようにしなければない。
   (インドNIIT社 S・ミトラ「アジア科学技術会議」報告 日経新聞 2000)